【脱中国】任天堂がベトナムでスイッチ製造開始のニュースを読み解く

こんにちわ。
元任天堂社員 管理人のはちく(@hachiku_89)です。

G20大阪サミットで米中の貿易摩擦は一時休戦となり、本記事はいったんお蔵入りさせていたんですわ。

ところが!
トランプちゃんがまた中国とやり始めたので、一度お蔵入りにしていたネタを復活させる運びになりました。

 

今回のテーマは

スイッチ ベトナムで生産するってよ!

という話。

脱中国は米中貿易摩擦に合わせたわけではない

7月上旬に流れた「任天堂がスイッチ生産をベトナムへ移す報道」ですが、マスコミの記事がこちら。

ホシデン、ベトナムで「Nintendo Switch」生産開始 単月30万台規模 (台湾DIGITIMES 2019/7/3)

任天堂「スイッチ」ベトナムで生産 中国から一部移管(日本経済新聞 2019/7/9)

任天堂、スイッチ生産を中国からベトナムに一部移管 今夏から(ロイター 2019/7/9)

上記報道内において

「一部移管はリスクを分散する観点から以前から検討していた。米国の輸入関税を回避するためにベトナムに移管するするわけではない」
(任天堂広報)

と発表しています。

 

この説明は事実であり、私が居たころから社内では中国生産を続ける中でいくつか問題が浮かび上がってきました。

1.中国人工員の急ピッチな賃金向上

2.中国内陸部から沿岸部へ、高い給与を求める労働者の流れ

3.工員の人員確保が困難化

この1〜3のループが繰り返され、中国内陸工業団地に位置するEMSは徐々に製造コストが上がってきたのです。
(当時は人不足感もあまりなかったので日本の人件費も安く、冗談として日本国内で生産した方が安いんじゃないと揶揄されてたぐらい。

 

中国の安い労働力を目当てに進出した多くの製造業者は、中国の急激な高成長により世界の工場としてのメリットが希薄し「脱中国」を意識せざるを得ない状況に追い込まれました。

実にありふれた話の中に、任天堂も渦中の1社として巻き込まれていたのです。

任天堂は新天地を探す

私が任天堂を退職する2014年頃。
会社上層部の東南アジア行脚が始まります

中国の次の工場を探す旅です。

上層部から次の工場の条件を訊いたところ

1.割安で若い労働力が大量に確保出来る事
2.港湾に近く海運の便が良い事
3.基本インフラ(安定電力やネット環境、食・衛生治安など)が整っている事

を注目して調査をしてるとのこと。
外資を誘致してる海外の工業団地であれば、概ね満たせてる条件でしょう。

中国の時は、食の問題で水が合わず体調を壊したり現地民の使う食堂が合わず日本人経営の日式居酒屋の常連になってたようです。
治安の問題も、通勤には社員が工場まで送迎が必須なるとか、休日の過ごし方がホテルで缶詰になるという深刻なことにつながります。
数ヶ月間に渡り工場立ち上げに携わる現地駐在社員にとって割と大事なことです。

その結果、合致したのが「ベトナム」ということになったようですね。

 

 

上記の報道内で、「ホシデン」さんと一緒にベトナム生産を開始するそうなので調べてみました。

ホシデンベトナムが有るのが、クアンチャウ工業団地。
http://vtown.vn/ja/company/hosiden-vietnam.html

クアンチャウ工業団地は

・ハロン湾につながる「ハイフォン港」まで120㎞
・ハノイ・ノイバイ国際空港まで40㎞
・ハノイ市まで40㎞

確かに条件を満たし、空港や港湾へのアクセスの良さは感じます。

JETROの2015年のデータでホシデンベトナムでの生産品目は「携帯電話の部品製造」と有りますので、ゲーム機の製造ラインに作り替えるのは造作も無いことでしょう。
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/reports/2015/pdf/07001959/vn_industrial-park_allr.pdf、200ページ参照)

ここをベトナムでの足がかりとして、ゲーム機生産を拡大。
他社EMSも呼び寄せて今後「脱中国」を加速していくと思われます。

 

ハノイが第2の深センに

本報道で「中国から一部生産を移管」と有るのがポイント。

スイッチを組み立てるには当然部品が必要。
全ての部品をベトナムで造ってるはずが有りません。

足りない部品は、どこから持ってくるか?
現在製造中の中国からでしょ!

 

中国に接する北ベトナムのハノイなら、深センで生産したスイッチの部材を陸運海運で持ってきてもコストは抑えられます。
それを考えると、他の脱中国の回答として「ベトナムハノイ」になるのは自然。
他の地域と比較して地理的に優位です。

ハノイ移行は、任天堂に限らず他社も追随するのでは無いかと予想します。

 

安い人件費を求め、中進国や発展途上国を転々とするイナゴの群れと化したグローバル企業。
地球は狭くなりグローバル資本主義の光景が、意外と身近にあって感慨深い物です。
(中の社員としては、課題解決への最適行動を取ってるだけで、そんな壮大な実感は伴わないものですけどね。

最後に

任天堂の脱中国ベトナム移行のニュースが出る直前には、このような夢のタッグ的な報道が有りました。

マイクロソフト、任天堂、ソニーが3社共同で対中制裁関税に反対を表明
(Engadget日本版 2019/6/27)

家庭用ゲーム機プラットフォーマー3社が、トランプ大統領の対中制裁関税に反対する声明です。
「ええ話やないかぁ〜」とゲーマーが感涙し胸打つ共同戦線。

 

なお対中制裁の実現性の乏しさから大きくはクローズアップされず、そのまま収束したトピックでした。

そして、7月上旬の「対中制裁回避のためスイッチ ベトナム生産」報道。

ソニー・マイクロソフトからしたら、「え!?ちょっ、おま!?」となっていたかもしれません。

「一部移管はリスクを分散する観点から以前から検討していた。米国の輸入関税を回避するためにベトナムに移管するするわけではない」
(任天堂広報)

実は任天堂のコメントが2社への釈明にも読めたりして、大草原不可避な味わいが有りました。

 

「任天堂・ゲーム」関連記事はこちらから
⇒ #ゲーム タグ